名香と銘香
昨日の内容にも関連しますが、香木には銘(めい)と呼ばれる名前が付されていることがあり、それらを「銘香」と称します。
一方で、素晴らしい香気を放つ上質の香木を「名香」と表現します。
どちらも読み方は「めいこう」ですから、ちょっと紛らわしいですね。
その違いを簡潔に表そうとすると、またややこしいことになりますが、「名香は例外なく素晴らしいと評価されてきた香木であるが、銘香は必ずしも名香ではない」と言えます。(少し詳しいことはこちらに触れていますので、ご参照下さい。)
歴史的な銘香には、その銘が付された出典を示す和歌(証歌)と共に、香気の出方を記載したメモが残されているものがあり、メモの内容は、現代において本物かどうかの鑑定を行なう際に有力な手掛かりになることもあります。
それらの銘香には、天皇によって付銘されたものなど、香道が芸道として成立する以前(足利義政より前の時代)から存在したものもありますし、香道の歴代家元・宗家が付銘したものも多数あります。
現代における銘香は、御家元(御宗家)によって付銘されたものが中心になります。
御家元(御宗家)が付銘されることによって、香木は初めて流派において使えるものとして認定され、その証として頂戴する「極(きわめ)」によって、分類や品質の程度が明らかになるのです。
これまでに「乱雲」・「葦辺」・「松の千歳」・「ゆふ襷」・「千枝の松」・「平安」・「露の色」等、様々な香木に付銘をお願いして参りましたが、その最大の目的は、門弟の皆様に成り代わって「極」を頂戴することにより、いわば“教科書を発行する”に等しい役割の一端を担うことだと考えています。
それら正式な銘香の他に、店頭で販売する一般的な香木に銘を付けることがあります。
リピートしていただく際に、単なる番号とかだと判り辛くなるという理由から記号代わりに付けるもので、その場合には必ず「仮銘」と表記します。
記号の代わりとは言え、販売する香木にはそれなりに思い入れがありますので、可能な限り、香気から連想される心象を擬えていそうな和歌を探し、仮銘の証歌とします。
それらの香木を、証歌の心と共に味わっていただけたら有り難いことだと、祈念しています。
(麻布 香雅堂 主人)