Column

2016.12.22

香木の鑑定 2

『手許にある香木がどんなものか、みていただけますか?』というお問い合わせを頂戴することがあります。
どのような経緯でお手許にあるものか、それぞれのストーリーに思いを馳せつつ、出来る限り拝見させていただくよう、心掛けています。

先日は、亡くなられたご親族が大切にされていたという直径が10cm弱・長さ30cm余りの比較的大きな塊が、持ち込まれました。
「どの程度の品質で、どのような扱い方をすれば良いか、知りたい」とのご主旨でした。

20年ほど前に入手されたらしいとのこと、手に取るとずっしりと重く、全体の比重は1を遥かに超えると思われます。
外見は黒っぽい茶色で、なかなかの貫禄です。

でも、鋸で挽かれた断面の様子からは、さほど樹脂化が進んでいない段階で採集されたことが判ります。
そこで肌を良く観察すると、樹脂がある程度表面に現れている茶褐色の部分と、樹脂化していない筈なのになぜか黒っぽく見える部分とが混在しています。

お伝えした結論は、
『間違いなくインドネシア産の沈香ですが、樹脂化はさほど進んでいなくて、品質はあまり良いとは言えません。外見は本来の状態ではなく、かなり加工を施されています。つまり、黒く着色された部分が大半を占めています。聞香用ではなく、観賞用とお考え下さい。』
というものでした。

「香木は、黒くて重いものが上質である」という常識を逆手に取る加工品は、2級品・3級品以下の香木を換金するために、かつて大量に生産され、出回りました。今回の沈香もその一例と思われましたが、その後隆盛を極めた(?)本来の原木以外の植物に化学合成オイルを含侵させるなどした全くの偽物とは一線を画する、本物の沈香であることは間違いありませんでした。

その見立てが正しければ、着色した染料を洗い落としてあげることによって沈香本来の姿が現れる筈ですし、その風貌は、さっぱりとした心地良いものに生まれ変われる筈です。

そこで、
『水に浸けて、タワシでもいいので、ゴシゴシ洗ってみることをお奨めします。乱暴と思われるかも知れませんが、香木化した部分は、簡単にダメージを受けません。』
と申し上げたところ、後日お電話を頂戴し、

『言われた通りに洗ってみたところ、どんどん色が落ちて大半が白っぽくなりましたが、茶色い部分もかなり残っていて、乾くと仄かに香りもします。香木というものに、すごく興味が湧いてきました!』
と喜んで下さいました。

故人の思い出と共に大切に飾って保管されるようお奨めしましたが、なぜ比重があれほど大きく感じられるのかは、依然として謎のままです。どんな方法を使って重くなるように加工したのか解明できれば、すっきりするのですが・・・。
(麻布 香雅堂 主人)

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