羅国について
木所と言う概念と、現代において現実的に提供される香木の内容との間には、乖離が見受けられることが少なくないと感じています。つまり、「このような香木をこの木所に用いることは、混乱を招く」と思える例が年々増えてきていると、懸念しています。
さて羅国ですが、真那賀と同様に、伽羅で代用されることが一般的になっているように見受けられます。その最大の理由は、羅国・真那賀に分類できる沈香が益々希少になっているからだと推測しています。逆に申し上げれば、羅国・真那賀に分類できる沈香が豊富に採集された時代には、伽羅で代用されることは少なかったと記憶しています。「伽羅系」と言われる羅国・真那賀も、「樹脂化の度合いが少ない、或いは、”堂々とした伽羅らしい伽羅とは言えない”伽羅」であると認識しています。それらの特徴としてほんのりとした甘味を主とする香気が味わい深いため、聞香を愉しむ上では、好ましいと評価される場合が多いのではないかと思います。
しかしながら、「羅国」と分類する以上、個人個人の好みに合うかどうかということよりも、分類の基準に当てはまるかどうかを精査した上で「羅国らしさ」を出せる香木を推奨したいというのが、香雅堂の考え方です。香雅堂なりに木所を分類する場合、基盤となるのは、京都の先代から文字通り薫陶を受けた「匂いの筋」の捉え方です。(「匂いの筋」とは、様々な香木が発する多様な匂いの中で、「分類の決め手となる特徴的な香気と、その立ち方」を表わす言葉と解釈しています。)もとより木所の基準は香道の流派の規範に属するものですので、志野流香道御家元・御家流香道御宗家に香木の付銘をお願いする過程を通じて学ばせていただきましたし、御家流香道先々代御宗家による分類も、実物を聞香させて戴き、それなりに理解したつもりです。
その結果、約50年に亘る経験から申し上げますと、羅国の「匂いの筋」を具える香木は、産地が判明するものに関しては、全てベトナム産沈香です。従いまして産地が不明な沈香を鑑定させていただく場合にも、対象が羅国の「匂いの筋」を具える場合には、ベトナム産と判断させていただいています。(香木の来歴と六国との関連は、輸入年代が古いものほど不確かなことが多いと言えます。詳しくは、別の機会に触れさせていただきます。)