精神的な背景

 仏教とともに香木が日本に伝えられた万葉の時代、人々の心はとても静かでおおらかだったようです。そのゆとりは、大自然の力を真摯に受け止め、敬う気持ちがもたらしていたと思えます。自然の一部となり、自然と共に生きる―。そんな万葉の心に戻るひと時へ純天然素材の香木スティック香「天の海シリーズ」の素朴な香気が、たおやかにいざないます。

 天の海シリーズは、万葉の時代を、そして日本を代表する歌人の一人である出来る柿本人麻呂の詠んだ歌を証歌としています。証歌に含まれる言葉を引用し、四種類のスティック香 / 線香を製作するに至りました。

 天の海に雲の波たち月の舟 星の林に漕ぎ隠るみゆ 柿本人麻呂


万葉の時代、生活と自然は密接だったようです
コンセプト 香木/香道との関係

 上質な香木は、難しい理屈や薀蓄を抜きにして心地よいかおりを持っています。

 日本三大芸道のひとつと数えられる、香道という香木の純粋な香りを「聞く」ことを主とした芸道が約500年前に発祥し、現代まで脈々と継承されるということをひとつとっても、香木の香りは時代を超えて人々に求められるものであることがわかります。

 しかし、香木を最も丁寧な形式で焚こうとすると、香炉・灰・炭・銀葉・火道具等の道具が必要になる上、技術的にも難しいものが求められます。そこで、スティック香という多くの人にとって親しみやすい形式で香木の純粋なかおりを楽しめるように本シリーズを製作しました。


香木を最も丁寧な方法で焚く方法:聞香炉で
香木とは 白檀/沈香/伽羅

 白檀や沈香と呼ばれる香木は、日本においては約1500年前から仏教・香道・茶道・煎茶道など、様々な場面・用途で使用されており、日本文化とは切っても切れない存在です。白檀も沈香も自然に育った香りのする木=香木で、今も昔も日本では採集できず、特に沈香は生成の仕組み自体が科学的に解明されていないという貴重かつ不思議な存在です。

 白檀はインド / マイソール産のものが、沈香はベトナム / タイ / インドネシアの三か国から産出されるものが、特徴はそれぞれ違いますが甲乙つけがたくよい品質ということができます。本シリーズは、基本的に産地ごとに一種類のスティック香 / 線香を製作しております(下記 成分表示を参照)ので、香木の純粋なかおりであることは勿論のこと、それぞれの産地の特徴を感じることも可能となっています。

 ※香道の世界において、伽羅は沈香を六種類に分類した際の一種とされます。天の海シリーズに(香雅堂の分類における)伽羅は使用されておりません。純粋な伽羅の香りを知りたい方、(つなぎを除き)伽羅だけで作るスティック香をお求めの方はご相談ください。手作り/10本 ¥100,000程度(時価)/ご注文から約半年 にて承ります。

 ※香木について詳細は「読み物」ページの「香道への誘い(15)香木の正体 1~(18)香木の正体 4」「和の香り(2)香木について」等をご覧ください。


自然に生成される、様々なかたちの沈香
天然素材100%

 原材料は、東南アジア・インドの山中に僅かに産出する稀少な香木(白檀 / 沈香)、ボルネオ産天然龍脳、粘着剤≒つなぎとして用いる椨(タブ)という樹木だけです。言い換えれば、「粉末にした香木を必要最低限のつなぎでスティック状にしただけ」という究極的にシンプルな作り方をしています。

 合成香料・化学糊・着色料等は、一切使用しておりません。当然ですが香木はいわゆる「栽培もの」ではなく天然のものを使用。つなぎとして使う椨についても、信頼できる業者さんが直営で育成した、雑味が少なく香木のかおりの邪魔をしない最高級の物を使用しています。


インドネシアで撮影された沈香の原木
香道的な発想による製法

 一般的な線香・スティック香の作り方の発想は香木/漢薬系の香料/合成香料などを調合し、かおりをデザインするという意味で「練香的」と表現できます。ブレンドの妙によってそれぞれの香料のかおりを引き立たせ、バランスのとれたかおりを作り出すという発想です。

 本シリーズの作り方の発想は、混ぜ物を基本的にせず(星の林のみボルネオ産天然龍脳を使用)、自然が生み出した香木そのもののかおりと向き合うという意味で「香道的」と表現でき、必然的に上質な香木を贅沢に使用することになります。

 良くも悪くも、合成香料などによるかおりをまとめる加工をしておりませんので、製造ロット毎に価格や品質の上下が生じ得ることをご容赦いただくようお願い申し上げます。


沈香の純粋な香りを聞くための香道具
ご使用方法

0.かおりのタイプが、一般的なスティック香/線香と比べて全くと言ってよいほど違います。はじめてのご使用の方は、1週間程度の期間で3~4本を少しずつ焚いてみてください。

1.焚いている場所から少なくとも1~2m以上離れたところでかおりをお楽しみください。近づきすぎると煙の影響を受けやすくなり、香木本来のかおりを感じられにくくなります。

2.かおりが強く感じられる場合は香炉の灰を利用して適宜途中で消火する・1本を複数に折るなどしてご調整ください。また、弱いと感じられる場合は複数本を同時にお焚きください。天の海の燃焼時間は約60分、その他3種の燃焼時間は約25分となっていますこともご考慮ください。


焚き方は人それぞれ、いろいろとお試しください
さまざまな場面で その1

創作活動・オフィスワーク・読書 等で
 集中力が求められる作業の開始時に5分~10分程度焚いていただくことをおすすめします。創作活動や読書などの世界への導入剤として、香木の落ち着いた香りが作用することが期待できます。

座禅・ヨガ・瞑想・写経 等で
 1本の燃焼時間が約25分(天の海のみ約60分)ということを利用し、嗅覚・視覚的に時間を計ることができます。古来より漢方薬としても認識される香木の香気を深い呼吸で身体に取り入れることで、身体によい作用をもたらすことも期待できます。


創作や読書などの世界への精神的導入剤に
さまざまな場面で その2

玄関・エントランス・待合 等で
 お客様がいらっしゃる直前に5分~10分程度焚いておくと、香木のかおりが外と内の世界観を切り替えるスイッチとなります。非日常の空間に入ったことを、普段接することが少ない香木の特別なかおりによって無意識的に認識・体感していただくことが可能です。

マッサージ・ストレッチ・入眠時 等で
 天然素材100%の香木のかおりは身体にやさしく馴染み、リラックスさせてくれます。鍼灸師の方より「患者の施術時に欠かせない。」というお声や、不眠症でお悩みの方から「症状が改善された。」というご感想をいただいております。


外と内の世界観を切り替えるスイッチに
成分表示、ラインナップ

星の林 : インド産最上質白檀67%、ボルネオ産天然龍脳3%、椨30%
雲の波 : インドネシア産沈香70%、椨30%
月の舟 : タイ産沈香70%、椨30%
天の海 : ベトナム産沈香55%、タイ産沈香8%、インドネシア産沈香7%、椨30%

※3:こちらをクリックすると、全商品が掲載された香雅堂のオンラインストアに移動します。

星の林 20g 桐箱入 / 5本 紙管入
雲の波 20g 桐箱入 / 5本 紙管入
月の舟 20g 桐箱入 / 5本 紙管入
天の海 20g 桐箱入 / 5本 紙管入
記録:仕様が決まるまで

 「天の海シリーズ」は上記の成分表示のとおり、つなぎの椨粉以外はすべて香木=白檀・沈香(星の林のみボルネオ産天然龍脳を使用)となっています。その為 ①いかに上質の香木を集められるか ②集めた香木を香りの特徴別に正確に分類できるか ③香木化していない部分(雑味を持っている部分)を掃除できるか という、香木に関する準備工程が、特に重要となってきます。そのようにして準備した様々な種類の香木を、何度も何度も調合→サンプル製作→香りのチェックという工程を繰り返し、それぞれの香りの特徴がはっきりとした四種類のスティック香の仕様が決まりました。それまでに行った工程の一部を写真・動画付きで紹介させていただきます。

香木の仕入風景1
天の海シリーズに使用したタイ産沈香の一部を、2012年の3月頃にタイに仕入に行きました。とても暑かったです。
香木の仕入風景2
沈香の採集および加工をおこなっている工場です。この写真では低品質の沈香を大まかに掃除・分類しています。
香木の仕入風景3
大きなビニール袋に入っている香木が、タイ産の最上質の沈香の一部です。右手前のものは独特の形の香炉です。
香木の仕入風景4
通訳の方、工場オーナーご夫妻、香雅堂の二人です。産地の方々の多大なご協力によって、天の海は作られます。
使用する沈香の一部1
大きな分類で数えても20種類以上の沈香を使用します。天の海にはそのうち14種類の沈香をブレンドしています。
使用する沈香の一部2
ベトナム産沈香の一例です。「爪」と呼ばれる分類の形で、大体5~6cm程度の大きさで、とても良い香りがします。
沈香の切断・掃除・選別1
長さ約60cmのベトナム産沈香を細分化・掃除していきます。鋸・鉈・木槌・小刀・刷毛・香割台 等を使用します。
沈香の切断・掃除・選別2
鉈と木槌を使い、大きな塊を真ん中付近で半分に割ります。木目に沿って刃を入れるので、強い力は必要ありません。
沈香の切断・掃除・選別4
香木化していない=雑味を持っている部分を削り落とします。樹脂化していない為、ぼろぼろと簡単に削れていきます。
沈香の切断・掃除・選別5
大まかな掃除が終わったので、鋸で7~8cmの長さに切っていきます。引粉も良い香りがするので、大事に保管します。
沈香の切断・掃除・選別7
切断した断面です、ちょっと良すぎるくらい樹脂がよくのっています。これは天の海に使用する最上質の部分です。
沈香の切断・掃除・選別10
7~8cmの長さに切ったものを、より細かく掃除します。右側は香木化した部分、左側はそうでない不必要部分です。
沈香の切断・掃除・選別11
写真中左の香炉を使用して香木のかおりを確かめながら、必要部分と不必要部分の選定を少しずつ行っていきます。
沈香の粉末化作業1
試作品製作の為に、ごく少量を粉砕機で粉末に加工します。本製作ではより大がかりかつ丁寧に別の方法で行います。
計量、そして調合
下準備が終わった香木たちを、香炉で焚いて香りを確かめながら、0.01g単位で計量・様々な割合で調合します。
サンプル製作1
調合した粉末に水を加え、乳鉢と乳棒を使用してよく練り合わせます。練りが不十分だと、焚きムラが出てしまいます。
サンプル製作2
十分に練った香を、スティック状にします。サンプルとしての製作の為、長さや太さは不均一な外見です。
サンプル製作3
出来たてでふにゃふにゃの為、自然乾燥させます。一日待つと乾いているので、さまざまな状況で焚き比べていきます。
仕様決定
40種類以上のサンプルを製作し、ついに仕様決定。仕入・加工・調合…約5年間かけて製品化の準備が整いました。